
僕は大学卒業後、父が創業した会社に入社し、専務として経営を支えながら長年働いてきました。しかし、心から尊敬していた父が病気で他界。悲しみの中で葬儀を執りおこなうことになりました。そんなとき、数十年ぶりに顔を合わせる兄が斎場へ現れて……?
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急に現れた兄
重苦しい空気に包まれた斎場で、「久しぶりだな」と声をかけられました。声の主は、2つ年上の兄。兄は中学生のころから素行が悪く、高校中退後、実家のお金を無断で持ち出して家を出て以来、十数年もの間、音信不通になっていたのです。
母が「最後のお別れだから」と連絡を入れたようでしたが、兄は父の死を悼むどころか、自分の権利ばかりを声高に主張しました。兄は「俺は長男だから、次期社長だよな。遺産もすべてもらう」ととんでもないことを言い出したのです。
さらに僕を打ちのめしたのは、当時付き合っていた婚約者の行動でした。葬儀の慌ただしさの裏で、彼女は兄から言葉巧みに声をかけられていたようです。葬儀から数日後に、彼女は
「お兄さんから『自分が社長になる』って聞いた。だから私、お兄さんと付き合うことにするね」と一方的に婚約破棄をしてきて……。あまりにも身勝手な2人の振る舞いに、僕は怒りを通り越して言葉を失いました。
兄の計画は白紙に
葬儀から1週間後、兄は「俺が社長になるからよろしく!」と意気揚々と会社にやってきました。実は親族の間でも「やはり長男なのだから」と兄を推す声が一部で上がり、兄はそれに便乗する形で会社を乗っ取ろうと画策していたのです。
しかし、これに猛反発したのが、長年会社を支えてきた従業員たちでした。「現場にずっと立ち、先代と共に汗を流してきたこの人(僕)が社長にならないなら、この会社では働けない」と、抗議の声が次々と上がったのです。
それでも遺産と会社をよこせと迫る兄に、僕は現実を突きつけました。
「遺産なんてないよ。父さんの長年の闘病費で個人の貯金は底をついているし、会社だって僕が私財を投じてギリギリ回している状態だ。社長になって、この負債ごと全部背負ってくれる?」
これを聞いた兄は顔面蒼白に。「そ、そんな話聞いてないぞ! 俺は降りる!」と、手のひらを返して逃げるように出ていきました。結果的に、従業員からの信頼を得ていた僕が、正式に社長を引き継ぐことになったのです。



